住宅購入へ向かって皆さん資金計画を立てるわけですが、世の中の常として「借金はしない方が良い」「借金は出来るだけ早く返すべき」という風潮があります。
もちろん一般的にはそうなのですが、住宅ローンに限ってはそうとは言い切れない部分があります。
今回は多くの人が誤解しがちな「短期間で返済することが正しい」という風潮を考えてみたいと思います。
借入期間の違いで生まれる差
日本では特に「借金=悪いこと」というイメージがありますが、住宅購入の際にはほとんどの人が現金一括購入は難しい状況です。足りない部分は住宅ローンを組む、これは決して悪いことではありません。
スタートする年齢にもよりますが、最長で35年という長期の借入が出来るのも住宅ローンならではです。
「35年を上限に借入期間は選択することが出来る」と言った方が分かりやすいですね。
借金はしないに限る、という人は「とにかく借入期間を短く!35年も払っていられない」となります。資金計算をしていると「出来れば20年くらいで借りたいです。」というお申出を受けることがあります。
借入期間が35年と20年とでは支払う利息が違ってきますので、総返済額(ローンを完済した時点で、トータルいくら支払ったか)を比べれば20年の方が少なくなるのは当たり前の事実です。
しかし、借入期間が短いとその分1回の支払いがくは高額になり、また審査される時にもハードルが高くなります。
20年返済と35年返済、差額はいくら?
まずは20年ローンと35年ローンで、返済額がどのくらい違うかを見てみましょう。
借入金額3500万円、
フラット35(全期間固定)で金利1.29%(2019年5月適用)、ボーナス払いなしを利用したとします。
(分かりやすくするため、フラット35sの優遇は除外して計算します)
まず、毎月の支払額は
借入20年 165,531円
借入35年 103,600円
実に61,931円の差となります。
これが最後まで積み重なると、総返済額では
借入20年 39,727,517円
借入35年 43,512,125円
なんと、総額378万円の差にもなります。確かに、新車1台分の金額、誰でも差は大きいと感じます。
ところが、現実的な毎月の支出を見てみましょう。
1回の支払いで61,931円の差、20年返済は年間743,172円も多く支払っています。
途中経過で比較してみると、20年が経過した時点での返済額合計の差は実に1,486万円にものぼります。
35年に比べて駆け足で返済をしているのですが当たり前なのですが、1400万円にもなると得をしていたはずなのに損している錯覚を起こします・・・
「期限の利益」という特権
ところで、皆さんは「期限の利益」という言葉を知っていますか?なんだか法律用語で難しそうなイメージですが、実はローンの契約書にも小さな文字でしっかりと記載されています。
簡単に言うならば、「返済が遅れない限り、最初に契約した期限までに、時間をかけて借金を返済して良い」と言う権利です。ゆっくり返済することが許されているのは、お金を借りる側にとっては利益がある状況なのです。
元々、一括で支払うべきお金が手元にないからローンを組んでいるわけです。無理をして、慌てて返済する必要は無いのです。
(「でも、繰上げ返済をして早く終わらせるべきって言うじゃないか?」と思われるでしょうが、それは余剰金があって始めて可能になる話です。)
子育て世代の教育費
子育て世代がマイホームを購入する時には、一番に考えなくてはいけないのが子供に将来かかる教育費です。高校や大学への入学金、授業料、それまでに通う塾の月謝、県外へ進学する場合には下宿代に生活費・・・10年後や20年後にそういった支出がピークを迎えるならば、家計を住宅費だけで考えると非常に危険です。
うちは収入があるから大丈夫
共働きだから大丈夫
本当にそうでしょうか。
住宅ローンは必ず返さなければいけない借金である一方で、将来の収入は未確定です。
借金はないに限りますが、一度組んでしまった以上は「遅れることなく返済し続ける」ことこそが重要です。
一番困るのは支払えなくなることです。資金繰りが出来なくなることが一番避けなくてはいけない事態なのです。
つまり「手元に現金を残しておいて、確実に支払いを続けていくこと」を最優先にするのです。
損して得取れではないですが、一番ベストなのは「住宅ローンを返済しつつ、貯蓄も出来る状態」だと言えます。
極論を言えば、20年返済で生まれた6万円の差額、これを支払ったつもりで貯蓄へ回せば良いのです。そのくらいの余裕を持った資金計画を立てるべきなのです。
「少しでも早く返した方がいい」という呪文にとらわれず、収入と支出のバランスを長期スパンで考えることが大事ですね。