経営者が住宅ローンを組もうとしたとき、会社員とは異なる複雑さに直面する方は多いのではないでしょうか。個人の収入と支出だけでなく、会社(法人)の財務状況まで詳細に審査対象となり、提出書類も増えます。
特に、銀行が重視するのは法人の「決算書」。そこから経営者自身の返済能力だけでなく、事業の健全性や収益の持続性まで判断されます。さらに債務超過がある場合や、自社の取引銀行で住宅ローンを申し込むケースなど、知っておきたいポイントは盛りだくさんです。
この記事では、住宅ローンを検討する経営者に向けて、銀行がどこを見ているのか、何を準備すべきなのかをわかりやすく整理します。
銀行が決算書で見ていること
1. 利益の安定性
銀行がまずチェックするのは、過去3期の営業利益・経常利益の推移です。単年赤字でも「一過性か」「原因が明確か」「黒字への回復基調があるか」が説明できれば審査通過の余地はあります。
2. 役員報酬の妥当性
経営者の個人収入は「役員報酬」として法人から支払われるため、それが毎月安定しているか・適正額かが重要です。あまりに少額だったり、期によってばらつきが大きいと「返済能力が不安定」と見られる恐れがあります。
3. 法人の借入状況と連帯保証
法人が融資を受けていて、経営者が連帯保証人になっている場合は、その借入が個人の与信枠に影響します。特に借入額が多い場合、住宅ローンの借入可能額が大きく圧縮される可能性があります。
4. 現預金の残高と資金繰り
資金繰りの健全性、現預金の残高(月商の2~3ヶ月分以上あると理想)、キャッシュフローの安定性は銀行の評価項目です。あわせて事業計画書や資金繰り表を提出できれば、融資判断が前向きになることもあります。
5. 勘定科目の内容
「役員貸付金」「仮払金」「棚卸資産」が不自然に多いと、私的流用や資金管理の甘さを疑われるため注意が必要です。
債務超過の企業でもローン審査は通るのか?
「債務超過」とは、資産よりも負債の方が多い状態のこと差し、金融機関が重要視するポイントです。財務的には赤信号に近い状態ですが、必ずしも審査落ちとは限りません。
★審査が難しくなるケース:
・3期連続で赤字かつ債務超過
・個人資産(預貯金・不動産)が乏しい
・法人借入に対して多額の連帯保証がある
☆審査に通る可能性があるケース:
・債務超過でも事業が安定していて将来の改善余地がある
・経営者本人の預貯金や資産が十分にある
・赤字や債務超過が一時的か、戦略的(例:設備投資)なものであると合理的に説明できる
銀行は「企業としての体力」ではなく、「経営者個人としての返済力」に注目する傾向もあるため、事前説明資料や資金計画の準備がカギになります。
自社の取引銀行で住宅ローンを申し込むのは有利?
経営者にとっての住宅ローン戦略として、「法人の取引銀行」で申し込むという選択肢があります。この場合、一般の銀行より有利になる可能性は十分あります。
【有利になる理由】
取引実績がある:銀行は事業内容や資金の流れを既に把握している
担当者との信頼関係が構築されている:数字だけでなく、背景や将来性も説明しやすい
経営状況の理解がある:赤字や債務超過の理由を勘案して柔軟な判断がされることも
【注意点】
住宅ローン担当と法人融資部門が連携していない場合は、メリットが薄れることも
取引銀行だからといって、審査基準が甘くなるわけではないため、正直な申告と資料の整備は必須
信金・地銀など地域密着型の金融機関では、こうした関係性を重視する傾向が強く、交渉次第では他の銀行よりも有利な条件で住宅ローンが通る可能性があります。
経営者が住宅ローンを通すために準備すべきこと
・決算書の読み方を理解し、自分で説明できるようにしておく
・ 資金繰り表や事業計画書を添えて、返済原資を明確にする
・ 法人借入や保証状況を正直に提示し、リスク管理の姿勢を見せる
・ 取引銀行とそれ以外の銀行を比較し、交渉の余地を探る
まとめ:経営者こそ“説明力”と“関係性”が審査突破の鍵
経営者にとっての住宅ローンは、数字を見られるだけでなく、事業への理解や個人としての信用力まで求められる審査です。債務超過や赤字でも、信頼関係や説明資料が整っていれば融資が通るケースもあります。
特に、自社の取引銀行は「顔が見える関係性」が強みとなります。決算書の中身に自信がない方でも、資料整理と誠実な対応で大きく状況を変えることができるかもしれません。