「タワマンを買えば相続税が安くなるって聞いたけど、もう通用しないの?」 そんな疑問を持つ方が、最近とても増えています。
かつては“節税の王道”とまで言われた「タワーマンション節税」。しかし、2024年からの法改正、そして2025年以降の運用強化により、そのスキームは大きな転換点を迎えています。今回は、なぜタワマン節税が問題視され、どのように制度が変わったのか、そしてこれからの相続税対策はどうすればよいのかを、具体的な事例を交えて解説します。
なぜタワマン節税が注目されたのか?
タワーマンション節税とは、主に高層階の住戸を活用して相続税評価額を抑える手法です。 不動産の相続税評価額は「固定資産税評価額」や「路線価」に基づいて算出されますが、これが実際の市場価格(時価)よりも大幅に低くなることがありました。
たとえば、東京都港区のあるタワーマンションの30階住戸が、1億5,000万円で購入されたケース。 相続税評価額は、建物部分が約3,000万円、土地持分が1,000万円程度とされ、合計で4,000万円前後にとどまりました。 この差額1億1,000万円に対して相続税が課税されないため、数千万円単位の節税が可能だったのです。
このような評価の“歪み”を利用した節税は、富裕層を中心に急速に広まりました。
ついに規制強化へ。2024年からの法改正とは?
このような節税スキームは、税の公平性という観点から問題視されてきました。 そしてついに、2024年1月1日以降の相続から、新たな評価ルールが導入されました。
ポイントは以下の通りです。
・高層階住戸に対して「補正率」を適用し、評価額を実勢価格に近づける
・特に20階以上の住戸が対象となりやすい
・節税目的の購入が明らかな場合、税務調査の対象となる可能性が高まる
この補正率は、階数や立地、築年数などに応じて国税庁が定める基準に基づいて算出されます。 つまり、これまでのように「評価額が安いから節税になる」という単純な構図は、今後は通用しなくなるのです。
2025年からはAIによる税務調査も本格化
さらに注目すべきは、2025年から本格的に導入される「AIによる税務調査の高度化」です。 国税庁はここ数年、デジタル化を急速に進めており、AIやビッグデータを活用した税務調査の仕組みを整備してきました。これにより、従来のような“人の目”による調査だけでなく、膨大なデータをもとにした“機械の目”による監視が加わることになります。
たとえば、以下のようなパターンはAIによって自動的に検出される可能性があります:
・相続直前に高層階のタワーマンションを購入し、短期間で相続が発生したケース
・評価額と実勢価格の乖離が極端に大きい物件の取得
・同一人物や家族による複数の高額不動産の短期間取得
・過去の相続税申告と比較して、明らかに不自然な評価額の変動がある場合
これらの情報は、不動産登記簿、固定資産税評価、売買履歴、金融機関の取引情報など、さまざまな公的データベースと連携して分析されます。AIはこれらの情報を横断的に照合し、リスクの高い取引をピックアップ。税務職員はその結果をもとに、重点的な調査対象を選定するのです。
実際に、2024年にはAIによる分析で不自然な相続税申告が発見され、修正申告に至った事例も報告されています。今後は、これまで見逃されていたようなグレーゾーンの取引も、より高い精度で検出されることが予想されます。
つまり、これからの時代は「バレなければ大丈夫」という考え方は通用しません。むしろ、AIによる監視の目が光る中で、正当性のない節税スキームはリスクが高まる一方です。 相続税対策は、法令に則ったうえで、透明性と持続可能性のある方法を選ぶことが、ますます重要になってきています。
これからの相続税対策、どうすればいい?
では、タワマン節税が難しくなった今、どのような相続税対策が有効なのでしょうか? いくつかの代替策をご紹介します。
① 家族信託の活用
高齢の親が所有する不動産を、信頼できる家族に託すことで、資産の管理や承継をスムーズに行うことができます。 たとえば、認知症による判断能力の低下を見越して、家族信託契約を結んでおけば、資産凍結のリスクを回避できます。
② 生前贈与の戦略的活用
2024年からは「相続時精算課税制度」の使い勝手が改善され、年間110万円の非課税枠と併用できるようになりました。
これを活用して、早めに資産を移転することで、将来の相続税負担を軽減できます。
③ 不動産の組み換え
収益性の高い物件や、評価額と時価の差が少ない物件に組み替えることで、将来の相続リスクを軽減できます。 たとえば、都市部の築浅マンションから、地方の収益物件への転換も選択肢の一つです。 また、賃貸物件にすることで「貸家評価減」を活用することも可能です。
まとめ:節税は「抜け道」から「戦略」へ
タワーマンション節税の時代は、確かに存在しました。しかし、法改正とテクノロジーの進化により、その道は閉ざされつつあります。 これからの相続税対策は、単なる“抜け道”ではなく、家族の将来を見据えた“戦略”として考える必要があります。
不動産は、相続対策において今もなお有効な手段の一つ。だからこそ、時代の流れを読み、正しい知識と専門家のサポートを得ながら、賢く備えていきましょう。

