分譲マンションの短期転売に歯止めを──不動産協会が打ち出した新たな対策とは?

不動産コラム

近年、都市部を中心に分譲マンションの価格が高騰し、一般の実需層にとって住宅取得がますます困難になってきています。その背景の一つとして指摘されているのが、「投機目的の短期転売」です。こうした状況を受けて、2025年11月、一般社団法人不動産協会(以下、不動産協会)は、分譲マンションの短期転売問題に対する新たな対策を発表しました。

この記事では、不動産協会の発表内容をもとに、短期転売の現状と課題、そして今後の展望について詳しく解説していきます。

なぜ短期転売が問題なのか?

分譲マンションの短期転売とは、購入後すぐに(多くは1年以内に)物件を売却し、価格差によって利益を得ようとする行為を指します。これは株式や仮想通貨などの投資と似た構造を持ちますが、住宅という生活の基盤となる資産においては、過度な投機行為が市場に悪影響を及ぼすとされています。

特に東京都心部では、新築マンションの供給が限られている一方で、投資目的の購入が増加。国土交通省の調査によれば、東京23区では新築マンションの約9.3%が1年以内に転売されており、都心部ではその割合がさらに高いとされています。これにより、実際に住むことを目的とした人々が購入しづらくなり、住宅価格の上昇を招いているのです。

背景にある社会的な変化

こうした短期転売が注目されるようになった背景には、いくつかの社会的な変化があります。

まず、低金利環境が長く続いたことで、不動産が「資産運用の手段」として注目されるようになりました。特に富裕層や海外投資家の間では、都心の新築マンションが安全な投資先とされ、実需とは異なる目的での購入が増加しました。

また、近年の物価上昇や建築コストの高騰により、新築マンションの価格は右肩上がりに。これにより、購入直後に売却しても利益が出るケースが増え、短期転売を狙う動きが加速しました。さらに、SNSや不動産系の情報サイトを通じて、転売による成功事例が拡散され、個人投資家の参入も増えています。

こうした動きが続けば、住宅が「住むための場所」ではなく「利益を得るための商品」として扱われる傾向が強まり、結果として本当に住まいを必要とする人々が市場から排除されてしまう恐れがあります。

不動産協会の新たな対策とは?

こうした状況を受け、不動産協会は「投機的短期転売は決して好ましいものではない」との基本姿勢を改めて表明。所有権が購入者に移る引渡し後の転売については、法的な制約が難しいことを踏まえ、引渡し前の段階での対策強化に踏み切ることを決定しました。

具体的には、以下の3つの柱を中心とした対策を、会員各社が順次導入していく予定です。

① 登録・購入戸数の上限制限

一人の購入者が複数戸を同時に取得することを制限することで、投機的な買い占めを防止します。これにより、より多くの実需層に購入機会が行き渡ることが期待されます。

② 契約・登記等名義の厳格化

購入申込者と実際の登記名義人を一致させることを求め、名義貸しや代理購入といった不透明な取引を排除します。これにより、実際に住む意思のない購入者による投機的行為を抑制します。

③ 引渡しまでの売却活動禁止

契約から引渡しまでの間に、転売目的での売却活動を禁止します。これにより、契約後すぐに利益を得ようとする短期転売の動きを封じる狙いがあります。

自主規制の限界と今後の課題

今回の対策は、あくまで不動産協会の会員企業による自主的な取り組みです。法的な拘束力はないため、どこまで実効性を持たせられるかが今後の焦点となります。また、引渡し後の転売については、所有権の問題から規制が難しく、完全な抑止は困難とされています。

それでも、業界団体が明確な姿勢を示し、具体的な対策を講じることには大きな意義があります。実需層が安心して住宅を購入できる環境を整えるためには、こうした取り組みの積み重ねが不可欠です。

まとめ

分譲マンションの短期転売問題は、住宅市場の健全性を揺るがす深刻な課題です。不動産協会の新たな対策は、業界全体でこの問題に立ち向かう第一歩といえるでしょう。今後、どれだけ多くの企業がこの方針に賛同し、実効性のある運用がなされるかが注目されます。

住宅は「住むための場所」であるという原点に立ち返り、誰もが安心して暮らせる社会の実現に向けて、私たち一人ひとりも関心を持ち続けることが大切です。