土砂災害とマイホーム−重要事項説明書の読み方−

不動産コラム

近年、日本国内では自然災害が多発しています。線状降水帯がもたらす長時間に渡る大量の雨によって、今年もまた大規模な土砂崩れが発生してしまいました。土石流に家屋が飲み込まれたり、増水した河川に流されたりする光景が毎年のようにニュースに流れます。「経験したことのない雨量」というキーワードをよく耳にしますが、気象条件がこれまでとは違ってきていることは事実です。国土の67%を森林地帯が占める中、住まいをどこに構えるかは非常に大きな問題です。地震、水害、土砂災害、挙げればキリが有りませんが、少しでも安心・安全な住まいを選ぶにはどうしたら良いでしょうか。

重要事項説明が必要とされる項目と根拠法令

不動産の売買契約に際して行われる重要事項説明では、以下の法律や区域について説明することが義務付けられています。

重要事項説明書を作成するにあたり、不動産業者はまずこれらの調査と確認をしなくてはなりません。

1:災害危険区域(建築基準法)

2:宅地造成工事規制区域(宅地造成等規制法)

3:造成宅地防災区域(宅地造成等規制法)

4:ぼた山崩壊防止区域(地すべり等防止法)

5:地すべり防止区域(地すべり等防止法)

6:急傾斜地崩壊危険区域(急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律)

7:土砂災害警戒区域(土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律)

8:土砂災害特別警戒区域(同上)

9:防砂指定地(防砂法)

10:河川保全区域(河川法)

11:保安林及び保安施設地区(森林法)

土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域

まず土砂災害とは、「崖崩れ・土石流・地すべりを発生原因として生じる被害」を言います。土砂災害のほとんどが大雨に起因しますが、その発生メカニズムは雨量だけでなく地形や地質、土地の利用形態に大きく左右されています。いつ、どこで、どれだけの規模で土砂災害が発生するかを予測するのは極めて困難です。ですが予め土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域の情報をインターネットで公開しているので、物件の所在が区域にあるかどうかを確認することは可能です。

「土砂災害警戒区域」は文字通り「土砂災害の恐れがある区域」です。もしも土砂災害が発生した場合には住民の生命または身体に危害が生じる恐れがあり、警戒避難態勢を特に整備すべき土地の区域とされています。ただし、この区域内であったとしても開発行為や建築行為は制限されていません。いわば「イエローゾン」です。

不動産取引(売買・交換・賃借)する場合には、重要事項説明書で「土砂災害警戒区域内」であることを記載し、説明する義務があります。

一方、「土砂災害特別警戒区域」は「レッドゾーン」になります。土砂災害警戒区域の中でも、土砂災害が発生した場合に建築物に損壊が生じ、住民の生命または身体に著しい危害が生じる恐れがある区域です。ここでは一定の開発行為や居室を有する建築物の構造が規制されます。

重要事項説明においても、区域内であることの記載と説明が必須です。

土砂災害防止法の改正には、2014年8月豪雨による広島市の土砂災害が大きく関わっています。当時は警戒区域に指定されることでの指定箇所の改修に伴う住民側の金銭的負担、不動産価値が下がることへの懸念から、基礎調査の段階からほとんど整備が進んでいなかったといいます。結果的に非難勧告が遅れ、被害を大きくしてしまいました。

これらの教訓を生かし、各自治体ではハザードマップの作成や情報公開を進めています。

造成宅地防災区域

この区域が制定されたのは2006年で、やはり2004年に起きた新潟県中越地震で宅地造成工事規制区域外で土砂崩れや土砂の流出が起こったことが背景にあります。

都道府県知事は、宅地造成工事規制区域外の土地で、盛り土をする前の時盤面が水平面に対し20度以上の角度をなし、かつ、盛り土の高さが5m以上である一団の造成宅地を「造成宅地防災区域」に指定することが出来ます。

この造成宅地の所有者、管理者・占有者は、擁壁等を設置して災害が生じないよう必要な措置を講じなくてはなりません。また、重要事項説明書にも「造成宅地防災区域」内であることの記載と説明が必要となります。

きちんと宅地造成が済み新規に発売している宅地や物件であれば、新しい法律に則り、許可や検査をパスしていると言えるでしょう。その際には「検査済証」をきちんと確認するようにしましょう。

中古物件の場合には、法律施行前か後かで変わってきます。擁壁が設置されていても検査を受けていない可能性もあるので、やはり「検査済証」の確認が重要となります。

今や、日本中のどこに住んでいても自然災害の可能性はあります。取引の前に重要事項説明書を十分確認しておくのはもちろん、避難経路の確認や非常時の連絡方法を家族と話し合うなど、日々の防災意識を高めておきましょう。